所有権移転仮登記とは、どのようなものですか?
父親から相続した不動産の謄本を確認したところ、父親が所有権移転を行う前に、親族以外の第三者の「所有権移転仮登記」という登記がされていました。この「所有権移転仮登記」とはどのようなものでしょうか。また、売却を検討しているのですが、そのままにしておいても問題ありませんか。
ご相談の「所有権移転仮登記」は抹消されることをお勧めします。所有権移転仮登記の詳しい内容については、詳細解説をご確認ください。
所有権移転仮登記(以下、仮登記)について、ご説明させていただきます。
不動産の所有権を取得した際には、「所有権移転登記(以下、本登記)」を行うことによってその不動産の所有権を明示することになります。
登記された権利は、原則登記された順に優先順位があり、先に登記することにより、後からの登記に対して優先権を持つことになります。ご相談の仮登記は、本登記前にあらかじめ登記上の順位を確保するために行う登記のことを指します。
仮に、仮登記の後に別の第三者により本登記がされたとしても、その仮登記が本登記された場合にはその本登記が優先され、後にされた第三者の本登記は対抗できずに、所有権を失うことになります。仮登記がされている場合、いつ本登記がされるかわからない非常に不安定な状態であり、本登記と変わらない影響力があります。
したがって、相続した不動産に仮登記がされているということは、売却予定の有無にかかわらず、この仮登記を抹消する必要があるといえます。
仮登記には1号登記と2号登記と呼ばれるものがあります。概要は以下のとおりです。(不動産登記法第105条)
- 1号登記:
登記すべき実態上の権利移動が発生しているが、登記に必要な書類が完備されていない場合にされる仮登記 - 2号登記:
登記すべき実態上の権利移動は生じていないが、将来の権利変動を請求する権利を有している場合にされる仮登記
したがって、仮登記権利者が所有している権利は、1号登記の場合は所有権=物権、2号登記の場合は仮登記の根拠となる予約完結権や農地法許可取得協力請求権=債権となり、権利の種類が違うことになります。
仮登記を抹消する場合、仮登記権利者の協力が必要になります。仮に仮登記権利者の協力が得られない場合は、その仮登記の権利に対して主張できる時効がないかを考えます。
その場合、2.のとおり仮登記権利者が有している権利が違うため、根拠となる法令等も違います。
- 1号登記(物権) 民法第162条による取得時効
- 2号登記(債権) 民法第166条による消滅時効
(※)時効は時間が経過すればそれを主張できますが、判決や援用のための手続きが必要になります。
仮登記の種類は、登記簿の「登記の目的」を見ることによりわかります。
1号登記の場合は「所有権移転仮登記」と記載されますが、2号登記の場合は「条件付所有権移転仮登記」や「所有権移転請求権」と記載されます。
したがって、ご相談の仮登記は「1号登記」であり、実態上の権利移動がすでに発生しています。
可能性はいくつか考えられるものの、仮登記権利者がお父様より先順位の仮登記をされており、かつ本登記をされると所有権を失う状態ですので、この仮登記について抹消する必要があります。
仮登記の抹消には仮登記権利者の協力が必要ですが、協力を得られるかが不明です。また、協力を得られなかった場合には時効を主張する等、個人でできる範囲を超えている可能性が高いと考えられます。仮登記がされている場合、まずは弁護士や司法書士などの専門家へ相談されることをお勧めします。
今回の事例のように相続人が相続したときに困ることがないよう、自己が所有する不動産については生前にきちんと整理しておきましょう。
相続に関するお悩みは、当事務所へお気軽にご相談ください。
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